月の本影が動く速度
月の本影の直径は100Km以上あるケースも多いですから、日常生活で考えるとかなり広くて大きなものです。それにもかかわらず皆既日食や金環日食の継続時間は非常に短く、月の本影は数分で通り過ぎていってしまいます。ということは、月の本影はそれなりに速い速度で駆け抜けていくことが予想されます。
ここでは2012年に起こる金環日食を例にして、東京や大阪付近で本影の動く速さを計算してみましょう。
食の最大となる時刻から計算・・・(A)
2012年5月21日に起こる金環日食では、大阪における食の最大は7時29分53秒です。また東京では7時34分35秒です。両地点における時刻の差は4分42秒(=282秒)しかありません。たったこれだけの時間で本影の中心は大阪から東京まで移動したことになります。
ここで大阪から東京までの直線距離は400Kmあります。400Kmを282秒で移動したわけですから割り算しましょう。
400Km ÷ 282秒 = 1.42Km/秒 |
本当に大雑把な計算ですが、秒速1.42Kmということになります。月の本影はかなり速い速度で移動しているのですね。
月の高度と公転周期から計算・・・(B)
月は地球の周りを回る衛星です。月の公転軌道を円軌道と仮定しましょう。平均距離は38.44万Kmですから、次の計算のように軌道を一周すると、241.40万Km移動することになります。
2 × 3.14 × 38.44万Km = 241.40万Km |
月の公転周期は27.3217日ですから、これを秒になおすと236.06万秒になります。
27.3217日 × 24時間 × 60分 ×60秒 = 2360594.8秒 |
241.40万Kmを236.06万秒かけて移動しますから、割り算しましょう。
241.40万Km ÷ 236.06万秒 = 1.02Km/秒 |
月は秒速1.02Kmの速さで地球に対して移動していることになります。月の影も同じ速さで移動しますから秒速約1Km、時速になおすと3600Km/時の速度で移動していきます。
月の高度が低い場合は、月が少し移動しただけでも地球上の直線距離を大きく移動します。食の最大となる時刻には、大阪での太陽高度は30.6度で、東京では35.0度です。両者を平均して32.8度としましょう。食の最大時刻ですから、月の高度は太陽と同じだと仮定します。
1.02Km/秒 / sin(32.8度) = 1.88Km/秒 |
また、地球は自転しているので観測地点も移動しており、これを考慮する必要があります。地球の赤道半径は6378.14Kmです。大阪の緯度は34.7度で、東京の緯度は35.7度ですから、仮に両地点の平均をとって35.2度と仮定しましょう。大阪や東京は24時間で地球の同じ緯度を1周しますから、次式のように1日の間に32730.51Km移動します。
2 × 3.14 × 6378.14 × cos(35.2度) = 32730.51Km |
この距離を24時間かけて移動するわけですから、秒速になおすと次式のようになり、毎秒0.38Kmずつ移動しています。
32730.51Km ÷ 24時間 ÷ 60分 ÷ 60秒 = 0.38Km/秒 |
地球の自転は月の公転方向と同じですから、月の公転速度は地球の自転速度の分だけ打ち消されます。
1.88Km/秒 − 0.38Km/秒 = 1.50Km/秒 |
結局2012年金環日食で月の本影は、東京や大阪付近の緯度では秒速1.50Kmの速さで動いていることになります。
考察
(A)で計算した1.42Km/秒は、(B)の計算結果1.50Km/秒と比べて大きく違っていませんが、少し違いがあります。
(B)の計算では本当をいうと、月の軌道は円軌道ではありません。2012年5月21日の場合は金環日食ということもあって、地球と月の距離が40.59万Kmと平均よりも遠い位置にあります。このため月の動き方は平均よりも遅くなります。(A)での計算結果は(B)の計算結果よりも遅くなっており、つじつまが合っています。
かなり大雑把な計算でしたが、当たらずも遠からずといえるのではないでしょうか。